▶開催中の「蒼樹うめ展」に識者が指摘「美術館で物販したいだけなのか」
●人気の漫画家・イラストレーター蒼樹うめさんの作品を紹介する『蒼樹うめ展』が、上野の森美術館で開催中。作品の人気も相まって、連日開館前に行列ができ、物販でも完売が続出するといった加熱ぶりを見せている。
●そんな中、同展を鑑賞した未識魚名義でイラストレーターとしても活動している日本映画大学映画学部准教授の中川譲氏が『Twitter』で「美術展としてはヤバい出来だと思った」と投稿。同展の問題点を指摘しています。
●「ひだまりスケッチ1巻初版くらいからの蒼樹うめファン」という中川氏は、原本のないデジタルの絵を展示するにあたって、蒼樹さんの手描きの作品解説を入れるという方法を採用していたことを「巧みだった」と評価。
●一方で、制作年や発表年、素材のキャプションがなかったこと、幼児期のお絵描き作品で絵で使われている茶色のクレヨンが額部分の紙に移って汚れていたこと、非日本語話者への配慮が全く無かったことを問題視。「美術館という場所を使って物販したいだけなのか」と批判しています。
●さらに中川氏は、完成品たるコミックスやグッズの展示がなく「これでは作家の意図は伝わらない」とツイート。美術史・マンガ史・大衆文化史等の中に位置づける努力が見られなかったことを指摘し、「美術館」を名乗る責任について言及しています。
中川譲氏のツイッターより。
さて、『蒼樹うめ展』(通称うめてん)について、ひだまりスケッチ1巻初版くらいからの蒼樹うめファンとして嬉しい部分は多かったが、美術展としてはヤバい出来だと思ったという話の整理をします。
http://t.co/OfKrhjcVyc pic.twitter.com/QbpzUV5moe
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
まず、うめてんてーはある時点から作業をデジタル化しているので、物質的な原本がないいわゆる「デジ絵」表現を、どうやってブツとして魅力的に展示するかという難問があるが、その点「うめてんてー手描きの作品解説」を入れるという方法で処理していたのは巧みだったと思う。これは面白かった。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
額装はちょっと安っぽい気もするがポップなうめてんてーとは合ってるのかもしれん。ただ展示として「アウト」だと思ったのは、制作年も発表年も素材もキャプションになかったこと。図録には発表年が入っているので、純粋に「展示の質」への意識の問題。 pic.twitter.com/fEChew3lF1
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
個人的にさらにアウトだと思ったのは、うめてんてーの人生を振り返るということで幼児期のお絵描き作品なんかもあったんだけど、恐らくその額装の途中の作業で、絵で使われている茶色のクレヨンが額部分の紙に移って汚れていたこと。絵画作品として価値ないとはいえ、オマエそらアカンだろ。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
他にもダメだと思ったのは、上野の森美術館という館海外からの観光客も多いエリアで、実際私も海外からの観覧者を何組かみかけるくらいの状態であったのにも関わらず、展示には非日本語話者への配慮が全く無かった(作品のローマ字表記すら一切無し)という状態だったこと。これもアカンわな。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
で、最高に「このキュレーターバカじゃねーの」と思ったのは、「蒼樹うめ」という作家を、マンガなりポップカルチャーなりデザインなり何なりというフィールドでどう考えれば良いのかについて、展示を通して何の提案も行われていなかったこと。美術館という場所を使って物販したいだけなのかと。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
マンガやアニメの完成形は印刷・放送される状態であって、原画はあくまでも素材である。だから、原画だけではなく完成品たる印刷物や映像部分も共に示して初めて作品の展示として通貫する。しかし、完成品たるコミックスやグッズの展示はなかったと言っていい。これでは作家の意図は伝わらないぞ。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
『蒼樹うめ展』というのは、上野の森美術館という「場所の権威」を利用して箔付けをして物販をしたいだけの展示と言われても、反論できない状態だと思う。本当はオタク的・萌え的・芳文社的な表現を、美術史・マンガ史・大衆文化史等の中に位置づけるみたいな努力をしなきゃいけないんじゃないのかと。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
ちょうど大分の『描く!マンガ展』のような啓蒙性を強く意識したマンガにまつわる展示を見た後でのことだったので、『蒼樹うめ』展は正直、「これアニメイトとかでやる原画展と何が違うの?」という感想が出てしまうわけであって、ファンとしては満足だが学徒としてこれを認めてはイカンと思った。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
こうしたオタク向けの展示を美術館でやると美術館の商業的には「大成功」してしまうのだろうけど、こういうアニメイトやとらのあなでの展示イベントと変わらないようなことを美術館という場を使ってやる意味について、関係者は何ら責任を感じないのか? だとしたら本当に「どうかしている」。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
延々悪口を書いたので恐らく上野の森美術館には力いっぱい嫌われたことであろうが、ただここが、常設展示を持たず話題性に頼った展示を行い続けねばならないというところには、色々と時代性が反映されているのだろうなとは思う。だからこそせめて作家や作品の位置づけくらいはして欲しかった。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
で。絵師目線として嬉しかったのは、「蒼樹うめ」の膨大な試行錯誤を見渡すことが出来たこと。多くの人は平面デザイン的な「つぶれまんじゅう」のイメージなのかなと思うが、目の表現や仕上げでの様々な変化や、あのデフォルメでの様々なカメラアングルの付け方など、勉強になるところは多かったよ。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
ただ、彼女がどれだけの試行錯誤をしているのかが分かるようには展示されてなかったんだよねぇ。興味のない人には「ああ、オタク向けのヤツね。『萌え』ね」で終わっちゃうだけというね。詰まるところはそこが一番の不満なんだと思うな。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 7
表現規制問題に感心がある人向けに蒼樹うめ展の美術展としての不味さを伝えるなら、「恐れ多くも常陸宮正仁親王殿下が総裁を務められる美術館がこれでいいのか」という批判や、「女性の性的消費を煽るような商業行為を美術館が支えるのか」というような、考えるべき批判を全く考えて無いところです。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 8
「作家や作品の歴史的文化的位置づけを考えてない」という状態は、つまりはこういうアホな非難に対しての防護壁を持たないということに他なりません。それを美術館という組織とその担当者がサボったのは、やはり怠慢だったと思いますよ。
— Yuzuru Nakagawa (@mishiki) 2015, 10月 8
ファンだけが行くならこれでも良いのかも知らんけど、美術館という場所柄を考えれば多種多様な人々に向けて分かり易くどう見せるかを全く考慮してないってのは流石に配慮が無さ過ぎだと思った。ちょっと漫画を軽く見過ぎじゃないかね…?